ニューズレター
コンピュータプログラムによって構築されたデータベース 編集著作物としての独創性の要件
一、前言
著作権法第7条第1項は「情報(素材)の選択及び編集配列によって創作性を有するものは編集著作物であり、独立した著作物として保護される。」と規定しているが、編集著作物が著作権法で保護されるためには、どの程度の創作性が要求されるのかについては、実務上議論がある。
知的財産及び商業裁判所(以下「IPCC」)113年(西暦2024年)度刑智上易字第35号刑事判決(判決日:2025年1月16日)は、コンピュータプログラムを用いて不動産物件情報を読み取り、分類、編集配列するデータベースは独創性(中国語:原創性)がないため、著作権法第7条第1項に規定する編集著作物とはみなさないとした。
二、本件の事実関係
本件の事実関係は概ね以下のとおり。告訴人は「物件検索システム及び方法」と呼ばれる特許コンピュータプログラムを開発し、同コンピュータプログラムの識別システムを用いて、ウェブページや政府が公表した実勢価格登録情報からテキスト、画像及び地理的位置情報を抽出し、電子オンラインデータベースに格納した。また、コミュニティ識別子を用いて、収集したデータのコミュニティ情報を相互参照し、最終的に告訴人は手作業で校正を行った。
告訴人は、その開発した電子オンラインデータベースを係争ウェブページで公開し、ユーザーが無料で利用できるようにしたが、告訴人は後に、被告会社とその責任者が郵便物自動仕分けシステムに関する研究のために、独自のWeb・クローラー・プログラムを使って係争ウェブページの情報を自動的に複製していたことを知った。
三、判決理由
台湾台北地方裁判所112年(西暦2023年)度智易字第27号刑事判決(原判決)は、編集著作物が著作権を享受するのは、情報の選択及び編成配列に一定程度の創作性と著作者の個性が表現されている場合に限られるとしている。本件告訴人の係争電子オンラインデータベースのデータリソースは、政府が公表した実勢価格登録情報及び複数の不動産会社のウェブサイトに掲載されている情報に及んでおり、その複製量は膨大であるとしても、それは、データを生成する前に、元データから事実情報を機械的に抽出・分析・比較・校正しているだけであり、情報の選択及び配列に「思想」は具体化されておらず。他の不動産会社のウェブサイトと比べても、独自の創作性や工夫がない。したがって、これは客観的な情報を提示するファクトデータベース(fact database)であり、創作性の要件を満たしているとは認められない。告訴人が手作業で行った校正についても、裁判所は、単なる校正は情報の選択及び配列とは無関係であり、思想又は感情という観点から著作者の一定の精神的な意味合いを示すものではないと判断した。
IPCCの113年(西暦2024年)度刑智上易字第35号刑事判決は、原判決に誤りはないと判断し、さらに、著作権の保護は、作品の表現に独創性があるか否かにより、「努力の原則」や「額に汗(sweat of brow)の原則」とは無関係であり、独創性がなければ、たとえ創作者が多大な時間、物的資源及び労力を費やしたとしても、完成した作品は著作権で保護されないと指摘した。裁判所はさらに、告訴人の係争電子オンラインデータベースが構築される前に、類似の機能を持つ不動産情報サイトが多数存在しており、係争電子オンラインデータベースから抽出された情報源には、他の不動産情報サイトも含まれていたため、係争電子オンラインデータベースは、告訴人が独自に完成させた創作ではなく、「独創性」を欠いていると判断した。